読書感想文

ボーイズラブ小説を毎月4−5冊ほど読みます。

凪良ゆう「美しい彼」

賛否両論あるんだろうなと思った。

少なくとも私の中では、毎巻読み進める度に内面で戦争が勃発していた。

 

全ての原因は主人公・平良一成の性格にある。

これは昔から生粋のいじめられっ子でスクールカーストでは常に最下層の彼が、カーストトップのイケメン・清居奏に一目惚れをする話だ。

 

平良は自分が最後の一兵卒になっても清居に忠誠を誓うし、自分は何があっても清居の味方と言うほど清居が好きなのに、自分と清居では住む世界が違うから俺は清居の考えていることを推し量ったりはしない、と宣言。つまりこれは、清居が「落ち込んでるから慰めて欲しいなー」と思ってツンデレを発揮するも清居が明確に言葉で「慰めて」と言っていないので慰めないという事。なぜなら清居の考えを推し量らないから。清居がどう考えてるかを下民である自分の脳で考えるなんて図々しい事だから。

 

平良よ、あなたは何て自己中心的なの!?

 

一見、へりくだって相手に最大のリスペクトを示しているように感じるが、要は相手の立場に立って考える事を放棄している。

 

家事を手伝う事で良い夫アピールをしつつも、そもそも「手伝う」って思考回路の時点で家事は妻の仕事と決めつけているのが丸わかりな旦那に通ずるものがありますね。家事は夫婦2人の仕事なんだから、そこは「手伝う」じゃなくて「家事をやる」でいいじゃないか。

 

まあそれは置いておいて。自分は相手のためを思ってやってますって事でも相手にとっては違う事、あります。自分の王である清居の気持ちを勝手に考えない事でリスペクトしているつもりの平良と、ちょっとは自分の気持ちを察してほしい清居。見事にすれ違ってるなぁ。

 

本作は平良と清居、両方の視点で描かれているので何故平良が思考を放棄したのかも分かるが、私には理解できない。ごめんよ平良。

 

あの孤独のツンツン王・清居が頑張って甘えてるのにそこは察しろよ!歩み寄らなければこの関係に未来はないと悟った彼が自分の気持ちを少しづつ打ち明けてくれているのにお前は!!しかしそこで察しない、王の思考は勝手に邪推しないのが平良一成という男。自己中心的すぎて読んでいて何回苛立った事か。

 

また、作中で平良は理不尽な扱いを受けたり焦ったりするとアヒル隊長を常に心の支えとして説明しています。

 

ヒル隊長が流れていく川は汚水ではなく 、金色のとても美しい川だ 。清居が支配する輝く王国の川を 、栄誉ある王さま専用のアヒル隊長が一匹だけで流れていく 。

(凪良ゆう『美しい彼』キャラ文庫 http://a.co/bfi4W6r )

 

そもそもアヒル隊長とは何ぞや?というのが私の正直な感想。

風呂に浮かぶアヒルの人形のアレです。アヒル隊長という名称ってそんなにメジャーだったのか?私は初めて聞いたぞ。

 

この金色の川を流れるアヒル隊長という表現は幾度となく出て来るが、毎度意味不明だった。

 

いや、文章の意味は分かる。日本語だからね。ただ汚水だろうが金色の川だろうが顔色一つ変えずにプカプカと流れるアヒルの人形に尊敬の念を抱く気持ちが理解できない。だって人形なんだから何処に居ようが表情は変わらないんだよ。トイストーリーじゃない限りね。

 

しかし私はとても重大な意図に気づく。

ただの人形に心を支えられている彼の内面を理解できないこの感情こそが作者の狙いなんじゃないか。

 

作中で清居は平良の思考を理解できなくて度々憤慨している。うんうん、その気持ち、とってもよく分かるよ。読んでて私は幾度となく苛々した。

 

では1巻目からずっと不満を感じていたのに、何故3巻まで読んでしまったのか。それは単純に、この小説のテンポが心地いい上に作者の言葉遣いが素晴らしかったからだ。

 

正直苛々し過ぎて何回も読む手を止めようと思った。けど止められなかった。読めば読むほど苛立ちは増すのに文章に引き込まれていく。不思議だなぁ。もう少し読み進めれば平良の性格が改善されるのではないか。もっと成長した彼の姿を見られるのではないか。そんな思いで最後までピッチを上げて読んでしまった。だって私、ボーイズラブはハッピーエンド主義だから。成長してお互いを理解し合う事でより一層相手の事が好きになる相思相愛ラブラブな展開が見たいんだ。

 

 

さて。

ここまで散々平良をディスってきたが、彼の清居への一ファンとしての姿勢には敬意を示したい。

 

「清居は誰よりも綺麗だ───────っ 」叫んでいるのは観客席後方にいるキャップにサングラス 、マスク姿の不審な男だった 。女ばかりの観客席の中で 、頭ふたつ飛び出るほどの長身なのですぐにわかった 。 「清居奏は夜空に輝く星だ──、誰よりなにより綺麗だ───」

(凪良ゆう「悩ましい彼 美しい彼3」キャラ文庫http://a.co/gvosNdz)

 

ファンの鏡じゃん。

何時如何なる時も、例え逆風の中でも憧れの人を信じ応援し続けるファンって最高ですよね。

 

『清居奏の登場時は天照大神クラスなので眩しくて目を開けていられない 』 『神は清居奏だけ一般人とは別の素材で作っている 』 『美しすぎて眼球が破裂しそうで怖い 』

(凪良ゆう「悩ましい彼 美しい彼3」キャラ文庫http://a.co/bZvTgNB)

 

一度でもアイドルや俳優のファンを経験した事のある人ならこの感情が分かるのではないか。彼の清居奏という俳優に対するファン心は、私が作中で唯一平良に共感できた部分だ。

 

 平良の幼少期からスタートした本作も、3巻目では平良と清居が大学生になり、お互い学業と仕事の二足のわらじで奮闘する姿を描いている。

 

平良がここまで心酔するほど美しい清居の、まさかのデブ期。相手に好きで居てほしいから美しくありたい、デブの自分は見られたくないという乙女心が切ない。けれども仕事のためならば全身全霊をかけて20キロ太る姿が何と男前なことか。

 

俳優として挫折しかけた清居が、役を掘り下げていく上で平良の存在の大切さに気づき、存在が天と地ほど真逆だと思っていた2人が実は似た者同士だったという展開に胸熱。きもうざだと思ってた平良が、いつの間にか自分の中でかけがえのない存在になっていた。

 

まだまだ甘々ハッピーエンド展開まではたどり着いていない本作。平良の写真家としての将来も気になるし、今後の展開がとても楽しみです。